なぜ生物に寿命はあるのか? (PHP文庫)

本書は、非常に面白かった。筆者は、テレビで人気の生物学者なのだそうだ。私は筆者の出ている番組は見たことがないのだが、本書での論理の明快さ、分かり易さ、読者をぐいぐいと引っ張っていくテンポと歯切れの良い解説振りを見る限り、人気があるというのも頷ける気がする。筆者は、まず、『はじめに』で、あるのが当たり前と思っていた寿命が、実は多細胞生物に特有なものであり、捕食者に食われたり、事故死しない限り、単細胞生物にはないという話で読者を驚かせてくれる。人は誰しも、死は怖いし、できれば永遠の命がほしいと思っているものだと思うが、かといって、単細胞生物になって永遠の命を得たとしても、生を感じ、喜ぶことができる心が無ければ、何の意味もない。進化は、ヒトのような高等生物の都合のためだけに差配してくれているわけではなく、何もかもが都合良くはいかないということなのだろう。『第１章寿命の起源』では、本書のメインテーマであるヒトの寿命の話に先立って、無生物→原核生物→真核生物に進化するまでの過程が解説されているのだが、特に、無生物から生物に進化するにあたり、相互に相手の存在なしには作り得ず、「ニワトリが先かタマゴが先か」の関係にあるタンパク質とＤＮＡのどちらが先に作られたかについての有力な仮説を紹介してくれているのが、非常に興味深い。『第２章生物にとって寿命とは何か』では、多細胞生物の細胞や個体が死すべき運命にある理由と、それゆえに複雑な機能とシステムを持つた高等生物の個体を作り得たことを明快に示しており、『第３章ヒトの寿命は何で決まるのか』では、ヒトの最大寿命が決まっている理由と、最大寿命の実現を妨げている様々な要因について、『第４章ヒトの寿命は延ばせるか』では、最大寿命にいかに近づくか、さらには、果たして最大寿命を延ばせるかに迫っている。我々にとって最も関心がそそられるのは第４章だろう。非常に精巧に作り上げられてはいても、意外に綻びが生じやすいヒトの機能とシステムを、医学の力によって制御・克服できる様々な可能性が示されており、率直にいって、現段階では実現性に乏しく、夢物語に属するような話ではあるものの、本当に方法は色々あるもので、非常に面白い話ばかりであることは間違いない。『第５章長寿社会は善なのか』では、長寿社会になった近未来と、ついに不老不死が実現した遠い未来をシミュレートしているのだが、そうした社会は我々の希望に反して、必ずしもバラ色ではなく、様々な問題点が発生するだろうことが指摘されており、なかなか深い問題だと考えさせられる。最後に、細かいことだが、本書を読んでいて、非常に気になった点を指摘しておきたい。筆者は、終始一貫して、「である」体を基調とした硬い語調で語っているのだが、どういう訳か、突然、何ヶ所かで、場違いなタメ口をきいてくるのだ。硬い語調に慣れ切ったところで、いきなり、「いるよね」、「だろうけどね」、「なるかもね」などとやられると、物凄く違和感を感じてしまう。筆者は、自分で書いていて、おかしいと思わなかったのだろうか？